ツキノワグマの生態と被害対策

 ツキノワグマは日本の自然を象徴する野生動物のひとつですが、最近では人里への出没や農作物への被害が社会問題となっています。当サイトでは、ツキノワグマの特徴や行動、生息環境、被害対策方法等について説明します。クマを知ることで私たちがどう共存していくべきか、一緒に考えていきましょう!

基本情報

 ツキノワグマUrsus thibetanus)は、アジアを中心に広く分布するクマで、日本では本州と四国に生息しています。かつては九州の一部にも分布していましたが、すでに絶滅したと考えられています。一方、ヒグマ(Ursus arctos)は北海道に生息しています。

特徴

 体長は120~180cm、体重はオスで60~120kg程、メスで40~80kg程です。全身が黒い体毛で覆われ、胸には特徴的な白斑があります。

生態

食性

 ツキノワグマは草食性を中心とした雑食性で春季には新芽や若葉、夏季にはアリやハチ類などの昆虫類、秋季にはブナ類やナラ類の堅果類(どんぐり類)ヤマブドウやサルナシなどの液果類を採食します。

 一方で人里や集落付近へ出没し、農林作物や家畜等への被害を発生させることもあります。農作物被害ではイネ・トウモロコシ・果樹類(カキ・クリ・リンゴ等)に多くの被害が発生します。また、針葉樹の皮を剥ぐ“クマ剥ぎ”によってスギなどの人工林にも被害が発生する場合があります。水産被害としては養魚場に侵入し、ニジマスなどの被害が発生しています。

堅果類の豊凶調査

繁殖

 ツキノワグマの繁殖生態は、主に6~7月の繁殖期に交尾が行われることから始まります。交尾後、受精卵は一時的に着床を遅らせる遅延着床の仕組みを持ち、冬眠開始時期の11月頃に着床が確定します。この特性により、母グマは十分な栄養状態を確保してから妊娠を継続することができます。妊娠期間は約7~8カ月で、1月から2月にかけて冬眠中に1~3頭の子グマを出産します。新生児は体重300~400gと非常に小さく、母乳を飲みながら春の目覚めまで母親に育てられます。母グマは子グマを約1年半から2年間保護し、次の繁殖期まで子育てを優先します。このため、繁殖頻度は約2年ごととされています。

個体群・個体数

 ツキノワグマは、日本の34都道府県に生息し、四国を除く地域で分布域が拡大しています。  推定個体数は地域個体群によって異なりますが、全国的に増加傾向が見られます。  一方、四国地方では個体数が減少し、九州では絶滅が確認されています。  このように、地域ごとに個体数の増減が異なるため、各地域個体群の状況に応じた保護・管理が求められています。

人間との関係

 近年、ツキノワグマと人間の軋轢が深刻化しています。2023年度には、クマ類による人身被害が198件発生し、被害者数は219人(うち死亡6人)と、2008年度以降で最悪となりました。

 ツキノワグマが人里に出没する要因の一つに、里山の手入れがされなくなったことがあります。昔は人間が里山の木々を燃料にしたり、落ち葉を畑の肥料などにしていました。しかし、燃料革命や過疎高齢化により里山を使う人が減り、手入れされないままになっています。そのため、クマが住む森と人間の住む場所の境目があいまいになり、クマが人里に近づきやすくなってしまいました。

 人とクマの共存を実現するためには、集落周辺の環境整備や人間側の意識改革、クマの適切な保護管理が求められます。

注意喚起

 日本各地でクマの目撃情報や人身被害など人とクマとの軋轢が増加しています。クマとの遭遇や被害を防ぐため、各都道府県等はクマ類の出没情報を公開し、地域住民等へクマの被害を受けないように注意喚起がされています。

その他