生態

哺乳類痕跡図鑑 〜特徴・見分け方〜

 登山などで山林を歩いていると、直接観察できなくても野生動物が生息していることを感じられる瞬間があります。その手がかりとなるのが、足跡、糞、食痕、爪痕などの「フィールドサイン」です。これらを観察することで、どの動物がどのように暮らしているのかを知ることができます。

 本ページでは、ツキノワグマをはじめとする哺乳類のフィールドサインを詳しく解説し、特徴や識別のポイントを紹介します。

記事の内容

・哺乳類の痕跡の特徴について

・痕跡の見分け方について

サル目(霊長目)

ニホンザル

 ニホンザル(Macaca fuscata)は霊長目オナガザル科に分類される哺乳類であり、本州・四国・九州(屋久島・種子島などの島嶼部を含む)に分布している日本固有種です。青森県下北半島に生息しているニホンザルは、世界的な霊長類の分布北限であることから、『下北半島のサルおよびサル生息北限地』として天然記念物に指定されています(文化庁HP)。

食痕

 ニホンザルは雑食性で、植物の葉や果実・種子、樹皮・冬芽・昆虫・両生類・キノコなど、様々なものを採食します。

 春には植物の若葉や芽・花など、夏には毒がある植物やアクが強い植物を除いた多くの植物の葉や芽・花・種子などを採食します。また、昆虫類や節足動物・両生類なども機会があれば採食します。秋にはミズキやブナ・ヤマブドウなどの植物の種子や果実を多く採食します。冬季は最もえさ環境の悪い季節で、植物の樹皮や冬芽・葉などを採食します。

樹木の冬芽を採食するニホンザル

雪の下の堅果類を採食するニホンザル

足跡

ニホンザルの足跡(親子)

特徴

 ・親指と他4本の指が分かれている

 ・前足は横長、後足は縦長

 (ヒトの手足に似ている)

ニホンザルの足跡(群れ)

 群れの集団が同じ場所を通ったため、一直線に道ができています。

ウサギ目

ニホンノウサギ

 ニホンノウサギ (Lepus brachyurus) は、本州・四国・九州に分布し、低山地や森林に生息しています。夜行性のため、直接観察することが難しい動物です。

足跡

 ノウサギの足跡は後足2つが並行に並び、その前方に前足2つが並び「T字型」のように残ります。新雪の時には足跡がはっきり残るため、観察に最適です。

特徴

 ・縦に2つ(前足)、並行に2つ(後足)の足跡が特徴的

食肉目

ツキノワグマ

 ツキノワグマ(Ursus thibetanus)は、アジアを中心に広く分布するクマで、日本では本州と四国に生息しています。

食痕(クマ棚)

 ツキノワグマが樹上で堅果類(ドングリ類)などを食べる際、枝先まで移動する事ができないため、樹上で結実した枝をたぐり寄せて採食します。折れた枝が樹上に鳥の巣のように積み重なったものを『クマ棚』と呼ばれています。

クマ棚とは? 野外観察のポイントについて解説|ツキノワグマ  ツキノワグマが樹上で堅果類(ドングリ類)などを食べる際、枝先まで移動する事ができないため、樹上で結実した枝をたぐり寄せて採食します。...

足跡

 ツキノワグマの足跡は、大きくて丸みを帯びており、前足と後足で形が異なるのが特徴です。前足は幅広で、後足は人間の足跡に似て細長い形状をしています。

タヌキ

 タヌキ(Nyctereutes procyonoides)は北海道から九州まで広く分布しており、森林や里山を中心に生息しますが、都市部にも適応し公園や住宅地でも目撃されることがあります。

足跡

 タヌキの足跡はやや丸みがあり、約4~6cmです。柔らかい地面や雪原では比較的明瞭な足跡が残ります。

キツネ

 キツネ(Vulpes vulpes)はイヌ科に属する哺乳類で、日本ではホンドギツネ(V. v. japonica)とキタキツネ(V. v. schrencki)の2亜種が生息しています。ホンドギツネは本州・四国・九州に、キタキツネは北海道に分布し、森林や草原・都市部にも生息しています。

足跡

 キツネの足跡はやや細長く、4本の指跡がはっきりと残る点が特徴的です。また、1本の線の上を歩いたような足跡になることも見分けるポイントになります。

特徴

 ・直線的な足跡

 ・4本の指跡が残る

偶蹄目

ニホンイノシシ

 イノシシは偶蹄目イノシシ科の哺乳類で、西日本を中心とした本州・四国・九州・八重山諸島などの島嶼部に生息しています。

食痕

 イノシシは植物を中心とした雑食性で、食性には季節的な変化が見られます。春季には植物の葉(単子葉・双子葉)やタケ類を多く採食し、夏季には昆虫類や両生類(カエル)・ミミズなどの動物質の割合が増加します。秋季〜冬季にはコナラなどの堅果類(ドングリ)や植物の地下茎などを多く採食します。

雪の下にある堅果類(ドングリ類)や根を採食するために掘り返している痕跡

タケノコを採食した痕跡

足跡

 イノシシの足跡はやや湾曲した2つの蹄の跡と、副蹄(ふくてい)の小さな跡が2つ残るのが特徴です。しかし、雪原では副蹄の跡がわかりづらいため、シカとの区別が難しい事が多いです。

イノシシを目視した後に残っていた足跡

特徴

 ・やや湾曲した2つの足跡

 ・副蹄(ふくてい)の小さな跡が残る

  ※ ぬかるんだ場所や雪原では残りにくい

泥擦り

ニホンジカ

 ニホンジカ(Cervus nippon)は、北海道、本州、四国、九州に分布し、森林や草原などに生息しています。

食痕

ササを採食した痕跡

ネムノキ(樹皮)を採食した痕跡

足跡

 シカの足跡は細長い2つの蹄の跡がつきます。副蹄(ふくてい)という小さな蹄もありますが、やや高い位置にあるため足跡には残りづらく、副蹄の跡の有無でイノシシと区別ができます。ただし、雪原ではイノシシの副蹄が残りづらいため、区別が難しいことが多いです。

特徴

 ・細長い2つの足あと

 ・副蹄(ふくてい)の跡は残りづらい

休息場所

引用文献

  • 文化庁.国指定文化財等 下北半島のサルおよびサル生息北限地.(https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/401/102)